この記事は2023年3月1日に弊社の森数がVoicyでお話した#52 短期離職を防ぐ方法 〜「こんなはずじゃなかった」は極限まで減らせるを元に記事化したものです。今回は、Voicyリスナーからの以下の質問にお答えする形で短期離職防止策についてお話していきます。

「離職率が高くて新しい人が入社してもすぐに退職します。現場は新人教育をしている状態が続いています。どうしたらいいのでしょう?」


2種類の離職

まずはじめに、離職は必ずしも悪いことではないとお伝えしておきます。辞めることにネガティブな印象を持つ人がほとんどかと思いますが、離職には、”健全な離職(卒業)””予防すべき離職”という二つのケースがあります。

例えば、仕事に対してすごく前向きに取り組んでいる人の多くは働きがいを重視してます。こういう人にとっては、働きやすさを求める施策を導入すると物足りなくなり、離職することがあります。一方で、働きがいよりも働きやすさを重視する人が組織に留まっていきます。結果、組織活性が下がってしまうことに繋がります。いずれにしても、働きがいを重視している人が辞めてしまうことは予防すべき離職です。

事業や組織のフェーズが変化すると活躍できる人材は変化していきます。例を挙げると、株式会社ファーストリテイリングでは、製造小売業としてより強いプレゼンスの確立のために、社員に求めるコンピテンシーを変更しました。以前は、言われたことをやるマニュアル主義を良しとしていましたが、マニュアルの本質を理解し、お客様への感受性を高めるよう社員に求めるようになりました。

このような会社の変化は個人にも大きな影響を及ぼします。事業や組織のフェーズに合わせて自分を変えていける社員もいれば、そうではない社員もいます。

健全な離職(卒業)

自分の価値発揮がしにくくなると気持ち的にしんどくなります。その人が活躍できる場所を会社が作れないのであれば、その人にとって転職という選択がヘルシーな場合もあります。これが健全な離職(卒業)です。

予防すべき離職

今回ボイシ―でご相談いただいた離職率が高く新人教育ばかりしているケースは、入社する人が次々と短期間で離職するため、予防すべき離職といえます。短期離職はどうして起こってしまうのでしょうか?

私は、「こんなはずじゃなかった」「聞いた話と違う」という入社前後の期待値ギャップが原因だと思います。相談者さんの職場のように、育った頃に人が辞めることが繰り返されている場合、現場としても入社した人に「この人もまたどうせ辞めちゃうのかな?」とこれまでの経緯から疑心暗鬼になって教育にも力が入らないことが想像できます。そうすると、立ち上がりが遅くなり、うまくいかなくなり辞めてしまう。現場も「またすぐに退職してしまった…」と疲弊する負のスパイラルに陥ってしまいます。

「こんなはずじゃなかった」を極限まで減らすには?

採用と教育の両面で考えていきます。まずは、入社者の期待値ギャップを減らす方法についてご説明していきます。求人票や面接で自社の良い点ばっかりを前面に押し出しすと、「こんなはずじゃなかった」は起きやすくなります。

求職者側は「こんなことを聞いていいのかな?悪い印象を与えないかな?」と選考中に聞きにくいことがたくさんあります。そのため、本当は聞かなければいけない、聞いた方がいいことを確認できないまま入社の意思決定をしてしまうことがあります。

”求職者が本当は知りたいけれど聞きづらい質問がある”という前提に立ち、採用する企業側が入社後の「こんなはずじゃなかった」の原因になりそうなギャップを埋めに行くコミュニケーションが必要となります。

「自社で『こんなはずじゃなかった』の原因になりそうなことはなんですか?」と聞いて答えられる人は誰でしょうか?どれぐらいいますか?意外と少ないんじゃないかと思います。期待値ギャップについて聞く相手、それは直近入社をしてくれた人と退職を決めた人です。

入社して3ヶ月もすると環境に慣れて、入社すぐに感じた違和感や困ったこと、入社前との期待値ギャップは忘れていきます。ですから、入社してすぐに入社後インタビューをすることをお勧めしています。入社2週間のタイミング、3ヶ月経つ前のタイミングなどでインタビューをしましょう。「入ってすぐ困ったことはありますか?」「入社後のギャップはありませんか?」というようにヒアリングし、採用の打ち出し方と教育に活かしていくと良いと思います。

退職を決めた人が本音で話してくれるかはわかりません。だからといって、退職を決めたからその人の声に耳を傾ける必要がないということはありません。卒業してもお互いに良好な関係でいられることはとても重要です。終わり方で会社の器が垣間見えます。ですから、退職者と向き合い、きちんと対話し、反省すべき点がみつかれば組織運営に活かしていくことをお勧めします。

noteでも詳しく書いているので、ご興味ある方はご覧ください。


入社者や退職者から得た情報を活かす<採用編>

以前勤めていた株式会社キャスター(以下、キャスター)での例を挙げます。「フルリモートだからどこでもいつでも自由に働ける」「楽しそう」という印象を持って入社した人の多くが短期離職していたという事実がありました。フルリモートで働くためには、自己管理を徹底した上でパフォーマンスを上げることが求められます。働く場所は自由だけれども、個人情報を扱うのでもちろんルールはありますし、本当に自由に働けて楽しそうという印象を持っているとギャップになります。

そのため、業務イメージを選考の中で正しく持ってもらえるように、ギャップになりやすい例を具体的に説明するように選考中のコミュニケーションを変えました。すると「思ってた仕事と違った」、「こんなはずじゃなかった」という理由で離職する人をゼロにすることができました。

前職の株式会社ミライフ(以下、ミライフ)では、個人の短期業績目標がなかったため(2023年当時)「目標がないのはユルフワで楽そう」というイメージを持つ人も中にはいました。しかし、自由度の高さは難易度の高さでもあります。与えられた目標をやりきるよりも遥かに難しいことにチャレンジしています。細かなルールがない分、自分で考えて決めることは増えます。そう考えると、イメージと実態の乖離はなかなか大きいように感じます。

そのため、ミライフではギャップが生まれやすい部分を代表が面接で丁寧に話すようにしています。これは、ギャップが生じるポイントを知っているからこそできる業です。

入社者や退職者から得た情報を活かす<研修編>

例えば、キャスターに在籍していた際、入社したばかりの人から以下を教えてもらいました。

①マニュアルが多くどこを見ればいいかわからない
②社内用語がわからなくてついていけない
③フルリモートで姿が見えないから質問のタイミングがわからない

①のマニュアルの問題は、すぐにマニュアルを暗記するのではなく、必要な時にすぐ答えを探せるよう導線を作り変え、検索方法を示しました。

②の社内用語の問題は、社内辞書を作りました。

③の問題は、質問先となる社員や質問するチャットの場所を決めました。そして、入社初日のオンボーディングで「5分考えてわからないことは何分考えてもわからないから質問して欲しいです」と目安を伝えるようにしました。加えて、「察することと、察してもらうことは今日から諦めてください。質問して大丈夫ですし、むしろ聞いてくれないと何に困っているかわかりません。聞いてくれることで私たちとしても困ってることに気付けるので、言ってくださいね」という話を入れるようにしました。

このように、入社者や退職者に実際に聞かないと気づけないギャップがたくさんありました。前からバスに乗ってる人は徐々にバスのスピードが上がっても気付きません。しかし、途中から乗る人はスピードが上がったバスに乗るので命がけです。

同じように、最初は薄いマニュアルからスタートしてどんどん分厚くなっていった場合も、元々いた人は気付きません。新人さんが入社して分厚いマニュアルを渡される状況が良くないことにも、元からいる社員は感覚が鈍くなっているので気付きにくいのです。だからこそ、入社者や退職者に教えてもらうことが大切だと思います。

まとめ

「こんなはずじゃなかった」という短期離職のほとんどは採用選考の設計の仕方、コミュニケーションとオンボーディングで防げるといっても過言ではありません。期待値ギャップを減らすために、社員の声に耳を傾け、活かしていくことで会社と働く人にとってよりよい未来にしていけると思います。