この記事は2023年2月22日に弊社の森数がVoicyでお話した#51 チームで遠くへ行く方法:全員採用を実現するにはを元に記事化したものです。今回は、Voicyリスナーからよく聞かれる質問にお答えする形で”全員採用(スクラム採用)(※)”についてお伝えしていきます。
「採用で現場の協力を気持ちよく仰ぐにはどうしたらいいですか?」
採用は人事だけでは完結しないため、部署と連携して進めていく必要があります。しかし、部署が最初から同じゴールに向かって協力してくれるとは限りません。私の過去の経験をもとにどうすれば周りを巻き込んで前へ進めるかをご紹介します。
(※)全員採用(スクラム採用):人事と経営陣だけで採用をせず、部署を巻き込んで最大の効果を創出する採用体制を”全員採用”や”スクラム採用(株式会社HERPが提唱)”と呼びます。
会社のサービス部門としての採用チーム脱却を目指す
新卒で入社したJACリクルートメントという転職エージェントを辞め、次に大手の会社で採用担当として働くことになった時のお話をしていきます。
入社初日に上司に「このチームの目標って何ですか?」「採用状況はどうなってますか?」と聞いたら、「目標はありません」と言われ心底驚きました。当時採用チームは完全に会社のサービス部門だったのです。現場からの要望書に基づいてただ作業をしてるだけの状態でした。
各部署との連絡はメールのみ。当時はリモート勤務も存在せず、全員出社型の働き方で同じフロアにいるのに会話すらないのです。現場は人事に全く期待しないことが初日でわかりました。もちろん協力体制もなく致命的に意思疎通を取らない組織でした。このままではいけない。そう思い、私はチームを変える動きにでました。
【実録】全員採用体制のつくり方
STEP1 情報収集と課題抽出
最初に取り組んだことは、情報収集でした。そこからKPIを設定し、数字を取り、数値をもとに媒体選定をし、どういったアプローチがいいのかといった課題を洗い出しました。
■ボトルネック
・職種ごとの使用媒体、チャネル
・応募以降の入社承諾までの数
・入社後の定着率
・入社した人材が活躍しているか
それまでは部署に言われるままに募集をかけ、応募者が集まらないと集まるまで媒体をダラダラ出し続けるっていうスタイルでした。採用の時期や募集の職種によって応募者集めの最適な手段は変わるにも関わらず、当時は戦略的に採用活動をしていなかったのです。
過去の傾向をもとに効果的に採用を成功させるために、どこを改善して何をするべきかを考えました。何かを巻き込むというよりも情報をとにかく集め、良質な仮説を立てやすい状態にすることに注力しました。問題点を挙げればきりがないほどでした。
■洗い出した問題点
・採用計画がない
・予実管理がされていない
・採用スペックが各部署任せ
・媒体選定や掲載方法に戦略もない
・一次面接官(採用人事)が配属先の仕事について知らない
・二次面接官(現場の上長)が採用面接のルールを知らない
・選考に進んでる候補者のフォローが全くされてない
・採用ページがイケてない
こちらのnoteで本質的な採用をするための情報をまとめていますので是非ご一読ください。
STEP2 会社や現場について知り一番の理解者になる
一つやることを決めました。それは自分自身がこの会社を好きになることです。そのためには会社について、実態について知るために、採用をかけている部署にインタビューや面接同席をお願いしました。
これまで人事側もいい加減な採用を行ってきたからか、現場も採用に対して重視しておらず、私の申し出に対して部署の反応は冷ややかでした。
やるからには現場が求める人材を採用したいですし、優秀な人材を取り逃したくはありません。何より入社してくれた人に「この会社に入ってよかったな」と思ってもらいたいですし、活躍して欲しかったのです。ここで諦めたらいけないと思い、とにかく頼み込み続けました。
そのためには、人事担当者が仕事内容や必要スペックをしっかり理解して、一次面接の段階で候補者に魅力づけする必要があるということを伝え頼み込みました。最初は、求人媒体の取材同行から始めて、なるべく部署にマメに顔を出すようにしました。すると、「次の面接一緒に入りますか?」、「この人に会ってどう思ったかを教えてくれる?」と現場の人から声かけてもらえるようになりました。これは閾値(※)が変わった瞬間でした。
(※)閾値:変化に必要な蓄積量、境界値です。三菱総合研究所経営企画研究室による『クォーター・マネジメント』の中では、組織が変わる閾値は25%前後とされています。異質な価値観や文化、考え方を25%前後の人が受け入れると、組織全体が変わり始めるというものです。
STEP3 採用要件をチューニング
一番採用予定人数が多い部署には毎日顔を出しました。その部署で働く人たちとも積極的にコミュニケーションをとって「上司として欲しい人材」だけではなく「現場が求める人材」も把握して、どんどん採用要件を変えていきました。
■現場が求める人材を知るために必要な情報
・今はどんな人が働いているのか
・今のチーム内でどんな役割を果たす人材が必要なのか
・それは何故なのか
「なぜ?」を何度も繰り返し、採用する上で何が一番大切なのかを一緒に整理しました。
採用要件を変えることに前向きではないケースもあると思うのですが、決して妥協で変えているわけではありません。そもそも、採用要件の設定を間違えているケースも多くあります。部署の人間は、自分達の業務についてよく知っていますが、決して採用のプロではありません。人事担当者が介入することで、採用市場を踏まえた要件設計ができ、応募者にとって的確な打ち出しができます。
当時、採用人数が多かった花形部署は、採用要件がかなり限定的かつ高く設定されていました。しかし、話し合いを続け、要件をチューニングした結果、この部署だけで半年で20人以上入社する人を生み出せたことが良い例だと思います。
STEP4 ヘルシーコンフリクトで地盤を整備する
周囲のステークホルダーを巻き込む上で大事にしたことは、”採用成功する上で必要な衝突を避けない”ことです。部署の責任者の方と何度も激しくぶつかりました。「もっと早い日程で面接できないんですか?」「この人をなぜ落とすんですか?」と。
責任者と仲良くなったり顔色をうかがった方がよいと思う方もいるかもしれませんが、採用成功のために譲れないことは相手が誰であろうと伝え、必要であればぶつかるべきだと私は考えています。
幾度となく衝突した人がいるのですが、私が退職する時に「君みたいな優秀な人がずっといてくれるとは思ってなかったけど、とても残念だ」と言ってくれました。煩わしいと思われていると思っていたので、とても驚きました。ヘルシーコンフリクト(健全な対立・衝突)はするべきだと思えた一幕でもあります。部署との関係性が構築され、対等にやり取りできる地盤が整ったら、さらなる改善の一手を進めていきます。
STEP5 選考への姿勢を変える
次に取り掛かったことは、選考へ姿勢を正すことです。上長と面接をする人が面接の作法やルールを知らない状態でいたからです。
■選考での問題点
・面接開始時間に遅刻
・履歴書・職務経歴書に目を通していない
・公正な採用選考に抵触している
・淡々と応募者の話を聞くだけでアトラクトやよく思ってもらおうという努力はしない
・履歴書・職務経歴書に直接メモをとる(机に広げて書いているから丸見え)
改善するために、採用マニュアルを作り面接で使うヒアリングシートを用意し、同席してフィードバックをすることを繰り返しました。このアクション繰り返すことで、少しずつ各部署の面接の姿勢を改善し、まっとうな採用カルチャーが醸成されていきました。
面接に来てくれた人をお客様だと思って丁寧に接することが大切です。ご縁がなくても別のご縁があるかもしれないですし、実際にサービスのお客様やファンになってくれるかもしれないからです。特に今はネットの口コミなどで気軽に情報を探すことができます。いくら、自社サイトで耳障りの良いことを謳っていても、実際の社員の行動が伴っていなければ悪評となります。選考で応募者に接する社員は会社の顔としての自覚を持ち接することが求められます。
どんなことが選考でタブーとされるか気になる方は以下noteを参考にしてください。
STEP6 受け身採用→攻めの採用へ
人事がサービス部門になると、採用が後手にまわります。採用計画がないにも関わらず現場から採用の要望が上がってくる時は、異動者がいるとか人が辞めることが決まっていたり、すでに退職済みというケースもありました。ポジションが空いてから募集をかけても採用に至るまで数ヶ月かかり、部署の社員への負荷が増します。この状態は組織にとっては良い状態ではありません。
状況を変えるために、部署とのコミュニケーションと巻き込むアクションを強化していくと、事前に欠員補充や人員強化についての相談をしてもらえるようになりました。
他にも、採用する前段階の問題(受け入れ方、部署との調整、候補者の進め方など)も相談してくれるようになり、以前とは比べ物にならないほど前向きに採用に携わってくれるようになったのです。
募集前や選考中に現場と適宜協働することで、攻めの採用が実現できるようになりました。加えて、採用要件が現実に即した内容になったためミスマッチも減り、定着率向上にも繋がりました。何より人や採用に関する考え方を根本的に変えることができました。
採用は一人では完結できません。採用の過程においても入社後も色々な人と協力しながら進めていきます。当事者として、そしてチームとして共通のゴールを目指す。これがより遠くにいくための最善策だと確信しています。
■アフリカの諺
「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」
(If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.)
STEP0 自分のバイアスを捨てる
STEP5までお伝えしてきましたが、ここで原点に戻ります。とういのも、冒頭の「現場に協力してもらうためにはどうしたらいいか」という質問に加えて、以下の相談や声をもらうこともあります。
「現場とは合わないので困っています。採用で踏み込みにくく感じています」
「自分は現場の仕事をしたことがなくよくわからないので現場に任せてます」
部署とのやり取りに苦手意識を持つ気持ちもわからなくもありません。けれども、”現場を知らずして採用成功なし”と言っても過言ではありません。部署とのカルチャーが合わなくても、その現場の仕事をしたことがなくても現場を知ることはできます。まずは部署へのネガティブな感情は横に置いておきましょう。
バイアス(先入観、偏見)を持たず、現場を知る努力をし、意思疎通することで全員採用を推進していけます。わからないからと丸投げして責任放棄せずに、より良いゴールに向かうため、現場と協働しようと人事担当者から働きかける姿勢が大切です。
うまく協働できない時は、一緒のゴールを見てみないのかもしれません。表出している、協力してくれていないという氷山の一角を掘り下げていくと見えてくるものがあるかもしれません。部署の方に心の余裕がなかったり忙しいのかもしれません。これまでのやり方を変えなくてもいいという気持ちを持っていることも考えられます。このように、色々なメンタルモデル(※)が潜んでいるのかもしれません。
(※)メンタルモデル:過去の経験や環境に基づく、潜在意識下での価値観や思考の枠組み。効率的な思考や行動を可能にする反面、バイアスや思い込みを生み出します。
まとめ
今回のテーマは採用にだけ限定したものではなく、チームで働く上でも重要になってくるテーマです。協力や助けを周囲に求めるは大事ですが、現状を正しく理解し、ゴールを明確に共有して進めることがチームで一致団結し、強い事業や組織をつくっていく上では必要不可欠なのだと思います。