前回の記事では「会社の理想の状態の言語化」するための進め方についてお話をしてきました。今回はその次のステップ、「何に報いるか」つまり、組織の状態や推奨する行動・成果の言語化についての話を進めていきます。

なぜ「何に報いるか」を明確にする必要があるのか?

人事制度の設計において、「何に報いるか」を明確にすることは、制度の効果を高めつつ従業員に納得感のある制度に生み出す上で不可欠です。企業が従業員に何を期待し、どのような行動や成果に対して報酬を与えるかをはっきりさせることで、従業員は自分たちに期待されている役割や行動を理解し、どの方向に進むべきかを明確にできます。

さらに、報いる基準を明示することで、経営の意思が制度に反映され、判断基準が一貫するようになります。その結果、評価や報酬が不公平に感じられることを防ぎ、組織全体で共通の価値観と方向性を共有できるようになります。

1.  理想の組織状態を明確にする

これは前回の記事のおさらいとなりますが、理想とする組織状態を明確にすることは、人事制度の柱を築く重要なステップです。この段階では、「組織の目指す状態」と、重視する「価値観」「コミュニケーションと協働のあり方」を明確にします。

これらを明確にしておくことで、制度設計が目的化してしまうことを防ぎ、組織として実現したいことに紐づく評価制度への落とし込みしやすくなります。

何を目指すか

理想の組織状態は、企業のビジョンやミッションに直結します。例を挙げると「顧客満足度向上を最優先とし、迅速な問題解決を図る組織」「イノベーションを追求し、新しい市場に挑戦し続けるチーム」といった具体的な目指す姿を設定することが必要です。

重視する価値観

理想の組織状態における「価値観」も大切な要素です。例えば、「挑戦を恐れない」「チームとして協力する」「顧客のニーズに迅速に対応する」といった価値観を従業員が共有できていることが理想です。

コミュニケーションと協働のあり方

理想の状態におけるコミュニケーションや協働の形も具体的にイメージしておきましょう。「顧客を優先した課題解決の議論が活発になされている」「部門間の壁を超えたオープンな情報共有がなされている」「一歩先の未来を共創してお互いにベストを尽くし合う」などが理想とされる例として挙げられます。

2.  どのような成果や行動に報いるか

理想の組織状態を言語化したら、報酬や評価を決めることに繋がる「報いたい行動や成果」を設定していきます。これまでのプロセスで洗い出した「期待される行動や成果」の中から、具体的に報酬を与えていきたい、より奨励していきたいものを検討していきます。
例を挙げると、以下のような内容が考えられます。

イノベーションに繋がる行動
イノベーションを重視する企業・組織の場合、新しいアイデアやプロジェクトを積極的に提案し、実行に移す行動が報われるべきです。「業務改善のアイデアを提案し、プロジェクトをリードした」「新規技術を導入して業務効率を改善した」といった行動が評価されます。
チームワークと協働
組織全体の目標達成に貢献するチームワークを意識した行動も大切です。例えば、「部門を超えて協力し、プロジェクトを成功に導いた」「他のチームをアシストしながら自部門の目標を達成した」といった行動に対して報いていくことが事業推進に寄与する協働を加速させます。
リーダーシップの発揮
特にリーダーやマネジメント層には、リーダーシップの発揮が求められます。部下を育成し、チーム全体を導く行動に報いることで、将来のリーダー育成にもつながります。

このように、「何にお金を払いたいか」を明確にすることで、従業員の行動を会社の目指す方向に導いていけるのです。

3.  なぜその行動や成果に報いるのか

次に、「なぜ報いたいのか」これらの行動や成果に報いる理由を明確にしていきます。報酬の理由をはっきりさせることで、従業員が何を目指して行動すべきか示していけます。

経営戦略との一致

報いる行動や成果は、会社のビジョンや経営戦略に基づいています。「新しい市場に進出する」という経営戦略がある場合、そのために必要なイノベーションや挑戦的な行動が評価されるべきです。

価値観の共有

会社が重視する価値観を従業員が体現することで、組織文化が形成され、長期的な成長につながります。「顧客第一主義」を掲げる企業があったとする場合、顧客の声に耳を傾け、顧客満足度を高める行動に報酬を与えることが理にかなっています。

持続可能な成長

短期的な成果だけでなく、長期的な成長を見据えた行動が奨励されるべきです。例えば、「新しい市場を開拓し、持続的な成長を図る行動」に報酬を与えることで、会社の未来に向けた貢献を促進します。

4.  部門や職種ごとの奨励行動をすり合わせる

従業員全体で目指す方向性は共通していても、部門や職種ごとに期待される行動や成果が異なる場合があります。その場合は、必要に応じて各部門や職種において、どのような行動が組織に貢献するかを検討し、すり合わせを行うことが重要です。

部門別では以下のような考え方も一例として挙げられます。

営業部門
営業部門では、新規顧客の獲得や既存顧客との関係強化が報酬に結びつく場合があります。「売上目標の達成」や「新規市場の開拓に貢献した」といった成果が重視されます。
技術部門
技術部門では、技術革新や業務効率の改善が求められることが多くあります。「新技術の導入を成功させた」「プロジェクトを期限内に顧客が満足するレベルで完遂した」といった行動が評価されることが考えられます。

ただし、行動や成果を細かく分けすぎると、全体としての一貫性が失われるリスクもあるため、基準を大枠で揃えた上で、必要に応じてフレキシブルに調整することが肝要です。会社全体の一貫した評価基準を維持しつつ、各部門ごとの特殊性を考慮するバランスが求められます。

すり合わせる方法

理想とする行動や成果の基準が定まったら、経営ボードと人事責任者・担当者との間で合意形成を図りましょう。その際、以下のステップで合意形成を進めるとスムーズです。

1. 経営層との対話

経営層が考える「報いるべき行動や成果」の背景や具体的イメージと、人事側でまとめたものをすり合わせるための対話を進めます。経営側が重視する観点を背景含めて丁寧に説明し、相互に意見交換を行うプロセスを通じて、納得感を高めることができます。

2. ワークショップやインタビューの活用

ワークショップやインタビューを通じて、現場の意見を収集することで、より現実に即した「報いるべき行動や成果」を作成できます。現場からのフィードバックを積極的に取り入れ、制度が形骸化しないように工夫しましょう。

なお、経営層との対話やワークショップ・インタビューを円滑に進め、要点を整理することは、社内だけでは難しい場面もあるかもしれません。そうした場合は、これらのノウハウを持つ専門家にサポートをしてもらうことで、スムーズな進行と合意形成が期待できます。

まとめ

「何に報いるか」を明確にすることは、組織の成功に必要不可欠なステップです。理想の組織状態を明確にし、それに基づいて推奨する行動や成果を設定することで、従業員は自分の役割を理解し、適切な方向に向かって行動できるようになります。

もし、貴社の制度設計において、何に報いるべきかの基準検討などにお悩みであれば、ぜひご相談ください。ユアパトは、制度の運用のしやすさだけでなく、評価制度を通じてマネジメント力を高め、個人の成長を促すことを大切にしています。貴社のビジョンに沿った制度を築き、強い事業づくりをご支援させていただきます。

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