前回の記事では人事制度構築の前提となる組織の現状分析についてお話をしてきました。今回はその次のステップ、会社の理想の状態の言語化の話を進めていきます。

なぜ会社の理想の状態の言語化が重要なのか?

人事制度構築を成功させるためには、制度のつくり込みに入る前に、会社が「どのような理想の状態を目指しているか」を明確にしておくことが重要です。理想の状態とは、企業が最終的に到達したいゴールや、目指すべき姿を具体化したものです。この理想が明確になれば、そこに到達するために求められる従業員の成果や行動が自然と見えてきます。

企業としての方向性がはっきりすることで、評価や報酬の基準も明確になりますし、従業員一人ひとりがどのように貢献すべきかが理解しやすくなります。つまり、人事制度の向かう先と骨組みの形を決めることが「会社の理想の状態の言語化」するということです。

会社の理想の状態を言語化する3ステップ

前回の記事のフェーズでは現状分析という観点から今の課題に向き合ってきました。その内容は頭に入れつつも、ここでは現状ありきの思考から一度離れ、会社の理想の状態を言語化していきます。その際に、段階的に考えを整理することが重要です。以下の3つを考えてみると良いでしょう。

1. 最終的に会社が目指すところ(そもそも私たちはなぜ存在するのか)

まずは、会社が最終的に達成したいビジョンを明確にします。たとえば、「想像力を形にし、社会を動かす」「データで価値を生みだし、社会の最適化を図る」などが考えられます。これは、企業のミッションやビジョン、パーパス(存在意義)と結びついており、人事制度が機能した先のゴールとなります。

2. どこに向かうのか(そのために、まずたどりつきたい場所)

次に、最終目標に向けての短期・中間的なマイルストーンを設定します。たとえば、「●●市場のリーダーになる」や「▲▲領域において持続可能なビジネスモデルを生み出し提供する」などです。直近の目標が明確になることで、従業員全員が同じ方向に向かって進めるようになります。

3. そのために今なにをするのか(みんなに期待する成果や行動)

最後に、ビジョンと中長期的な目標を達成するために従業員に求められる具体的な成果や行動を洗い出します。例えば、「新しい技術の活用」や「顧客満足度向上のための柔軟な対応」といった行動などが期待されます。

このフェーズで言語化された成果や行動は、後の評価基準や行動規範を設計する際の基礎となります。具体的にどのような行動が理想の状態に結びつくかを明確にすることで、制度設計の方向性が定まります。

理想の状態を言語化する際のポイント

会社の理想の状態を効果的に言語化するために、押さえておくべきポイントが3つあります。

1. シンプルな表現を使う

理想の状態は、シンプルで誰もが理解しやすい言葉で表現することが大切です。複雑すぎる言い回しや抽象的な表現は避け、従業員全員が理解しやすい平易な言葉選びを心がけましょう。

2. 未来に向けた視点を持つ

理想の状態を考える際には、未来志向であることが重要です。現状にとらわれすぎず、数年先、さらにその先を見据え、会社がどのような姿でありたいかをイメージし、到達するための道筋を描きます。

3. 一貫性を保つ

会社のミッション(パーパス)、ビジョン、バリューと理想の状態が一貫していることが大切です。すべての要素が整合性を持つことで、従業員が理想の状態に向けて行動しやすくなります。

具体的な成果と行動を洗い出す方法

理想の状態に向かってどのような成果や行動が従業員に必要かを整理することは、制度構築における重要なステップです。ここではまだ拙速に評価基準の定義に入るのではなく、関係者間の効果的なディスカッションを通じて方向性を揃え、「より確からしい」期待する成果や行動を具体的に引き出すことが必要となります。

1. プロジェクトボードとディスカッション

人事担当だけでなく、経営ボード皆が参加する場を設け、理想の状態に向けた成果や行動について意見を出し合います。このディスカッションでは、リアリティを生むためにもラインマネジメントの視点や異なる職種の視点も欠かせません。各管掌毎の立場や役割に基づいた意見を引き出しつつ、部分最適に陥らないように留意し、全体像を捉えます。

2. 意見を引き出すための質問と仮説提示

ディスカッションを効果的に進めるためには、参加者が答えやすく、考えを整理できるような具体的な質問や仮説を投げかけることがポイントとなります。そうすることで、参加者は自身の考えを具体化しやすくなり、理想の状態を具体的な成果や行動に結びつけることができます。

例えば、以下のような質問を投げかけることで、参加者が具体的な成果や行動を引き出しやすくなります。

「最近、社内で特にうまくいった事例はありますか? その結果から、どのような成功要因や行動が見えますか?」
「もし、次の1年で事業や組織に3つ大きな変化を起こせるとしたら、どんな変化をもたらしたいですか?」
「現在の仕事の中で、最もミッションやビジョンに近いと感じるのはどんなことですか? そのような瞬間を増やすためにどんな行動が必要ですか?」
「今社内で最も高く評価している行動や姿勢は何ですか? それをビジョンに照らすと何が変わってくると思いますか?」
「挑戦を奨励する文化を育てるには、従業員が新しい提案を出しやすくすることが大切です。そのために、どんな行動や支援が必要だと思いますか?」

このような呼び水や仮説を提示しながら議論を進めることで、理想の状態に向けた行動と成果を具体化していきます。

3. フレームワークを使って意見を整理

意見を整理する際、成果・行動・影響の3つのカテゴリに分けることをお勧めします。洗い出した意見を整理しやすくなりますし、行動が何に影響し、成果と理想の状態にどう結びつくかが見えてくるからです。

(例)
成果: 「売上目標の達成」「新規顧客の獲得」
行動: 「積極的な提案」「チームワークの促進」
影響: 「社内イノベーション促進」「顧客満足度向上」「競争力強化」

4. ディスカッションの進行役を立てる

ディスカッションの際には、ファシリテーター(進行役)を立てることで議論の偏りや進行の滞りを防げます。ファシリテーター(進行役)は、意見をうまく引き出し、議論が散漫にならないようにまとめ、意見を集約する役割を担います。

この時、社内ではなく社外からファシリテーターをアサインすることで、社内の事情に与さず、客観的な視点を元に議論を進行できます。自社だけで制度づくりを進めずに他社事例や制度設計のノウハウを持つ人事制度のプロを招くことも有効な打ち手となるでしょう。

まとめ

会社の理想の状態を言語化することで、人事制度の方向性が明確になり、従業員に求める具体的な成果や行動がクリアになります。このプロセスを経て、従業員全員が同じ方向に向かって進む基盤が整い、組織全体の成長を促進することが可能になります。

もし、会社の理想の状態をどう言語化するかで躓いた場合は、ぜひご相談ください。私たちは、貴社のビジョンに基づいた理想の状態を一緒に描き、組織の未来を導くお手伝いをいたします。

↓↓↓続きはコチラ