人事制度は、企業経営の中で極めて重要な役割を果たしています。前回の記事では、人事制度の基本概念から構築のポイントを解説しました。今回は、人事制度の中の評価・等級制度の目的とスコープの重要性、留意点をわかりやすく解説していきます。

なぜ評価制度と等級制度の目的とスコープが重要なのか?

評価制度や等級制度を効果的に導入するためには、その目的とスコープを明確にすることが重要です。これが不明確だと、評価基準や等級の設定が曖昧になり、社員や関係者の間で認識のズレが生じる可能性があります。その結果、社員のモチベーション低下や、組織全体のパフォーマンスに悪影響が及ぶこともあります。

特に、評価制度と等級制度は、企業の経営戦略を反映し、社員が目標に向かってどのように貢献すべきかを明確に示すツールです。これらの制度が何のために存在し、どのような範囲で適用されるのかを経営陣がしっかりと理解し、合意することが制度の成功を左右します。

固めておくべき観点

評価制度と等級制度を設計する際には、特に重要な観点を明確にすることが不可欠です。これにより、制度全体が一貫性を持ち、社員にとって納得感のあるものになります。

1. 制度の目的とゴール

まず、人事制度構築/改定の目的を明確にしましょう。一例として、以下のような目的が考えられます。

・自社ビジョンの実現:自社ビジョン・戦略の実現に向けて、挑戦とイノベーションを促進・加速させること。
・組織の成長と個人の成長の両立:社員一人ひとりの成長を促進し、同時に組織全体の目標達成に貢献すること。
・公正な報酬と昇進の基準:社員が公平に評価され、努力や成果が正当に反映される仕組みを作ること。
・自律的な目標達成促進:社員が意欲的に働ける環境を整え、自主的に目標達成を目指す姿勢を促すこと。

また、ゴールとして、これらの目的に基づいて達成したい成果や状態を設定します。例えば、「適切に評価・処遇されることで一人ひとりがやりがいを持ってコミットできるようになる」「キャリアパスが明確化され支援の枠組みも確立できている」「自発的な取り組みが増えて組織全体のパフォーマンスが向上している」などがゴールとして挙げられます。

2. スコープの設定

次に、評価制度と等級制度の適用範囲(スコープ)を明確にします。スコープには、評価対象となる社員の範囲や、制度の設計対象が含まれます。具体的には以下の点を検討しましょう。

・制度構築・改定の対象者:どこまでを対象とするのか。どこが中心ターゲットか。
・やらないことは何か:何を取り組みの対象外とするのか。例えば、運用難易度の高い細かな作り込みはしない、特定の役職や部門は対象外とする、など。
・何を問題だと捉えているか:現状の制度における問題点、解決したいことを洗い出す。
例)評価基準が曖昧で社員が納得しにくい、など。
・制度構築・改定によって避けたい事態:新しい制度導入により生じる可能性のある重要リスクを明確にする。
例)制度に納得できない社員の退職、など

3. 優先順位の設定

評価制度や等級制度を導入する際には、最初に設定した目的やゴールを達成するために、複数の重点事項が出てくる場合があります。この場合、何を優先するのかを決定することが重要です。たとえば、短期的な業績向上を優先するのか、長期的な人材育成を重視するのかなど、優先順位を設定する必要があります。

さらに、以下の観点の優先順位を明確にすることも必要です。

・必要機能を揃えること:制度に必要な機能をどこまで揃えるか。
・品質:制度の精度や適用範囲の広さをどれだけ重視するか。
・予算:制度導入・運用にかかるコストをどの程度許容するか。
・納期:制度構築・改定の完了時期をどこまで重視するか。

4. 経営ボードとの合意形成

評価制度と等級制度を成功させるためには、経営ボードとの合意形成が欠かせません。経営陣全員が制度の目的やスコープについて共通の理解を持ち、それに基づいて一貫した運用を行うことが重要です。

共通ドキュメントを作成する

合意形成を効率的に進めるためには、目線を合わせて合意形成を進めるための共通ドキュメントを作成しておくことが有効です。このドキュメントには、プロジェクトの目的やスコープ、関係者の役割、優先順位、リスクなどを含めると良いでしょう。これを基に、経営陣や関係者皆が目線を合わせて同じ方向を向いて進むことができるようになります。

キーマンの参画の重要性

また、評価制度と等級制度の構築や改定には、社長や役員、人事トップなどのキーマンの参画が不可欠です。これらのキーマンが初期段階から関与することで、制度設計が経営の意図と一致し、スムーズに運用されることが期待できます。

【参考】ユアパトの共通ドキュメント:インセプションデッキ

ユアパトでは、この共通ドキュメントを「インセプションデッキ」(※)というツール・フレームを用いて作成し、目線合わせしています。
(※)インセプションデッキ:プロダクト開発を始める前に、プロジェクトのミッション、ビジョン、状況や背景についての共通認識を作り上げるためのツール

インセプションデッキは元々プロダクト開発プロジェクト用に作られたツールです。そのため、人事制度のプロジェクトには当てはまらない項目もありますが、主に黒文字の項目を具体的にし、言語化することで、目的・スコープをぶらさずに進める土台をつくることができています。よろしければ参考にしてみてください。

このフェーズでの留意点

このフェーズでは、合意形成を含む以下の点に留意することが重要です。

1. 透明性を保つ

制度の目的やスコープについては、全員が理解できるように明確かつ透明に説明することが求められます。曖昧な部分や不明瞭な点が残ると、後の運用で問題が生じる可能性があります。

2. 現場の事実をキャッチしておく

制度は現場で実際に運用されるため、現場の実態や問題点を把握しておくことが重要です。これにより、後の現状分析や設計において、実態を踏まえた効果的な制度を構築するための基盤が整います。

3. コミュニケーションを密にする

経営陣、キーマン、現場担当者とのコミュニケーションを密にし、各段階での意見交換やフィードバックを積極的に行うことが大切です。これにより、全員が共通の理解を持ち、納得感のある制度を作り上げることに繋がります。

4. 確認・フィードバックの場を設ける

合意形成や議論の過程では、定期的に確認・フィードバックの場を設け、進捗状況や合意内容を確認・修正することが必要です。これにより、後から認識のズレや手戻りが生じるのを防ぐことができます。

おわりに

人事制度構築・改定の成功においては、その目的とスコープを明確にし、経営陣との合意をしっかりと形成することが重要です。これにより、制度が企業の戦略や目標と一致し、社員が納得して取り組める環境が整います。

もし、これから自社に最適な人事制度を構築・改定したいとお考えであれば、ぜひお気軽にご相談ください。私たちは、貴社にとって最適な選択・設計をサポートし、目的実現へと導くお手伝いします。

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