前回の記事では、評価制度の運用方針やサイクルについて具体的に解説しました。今回は、運用スタート前の総仕上げとして、従業員に評価制度を「伝わる」形で共有し、自分たちの制度として運用に臨めるよう促すための「ガイダンス」に焦点を当てます。

なぜガイダンスが必要なのか?  

評価制度をスムーズに運用するには、関係者全員がその意図や内容を正しく理解し、運用できるイメージを持つことが不可欠です。ただ一方的に情報を伝えるだけではなく、制度の意味や重要性を「伝わる」形で共有し、従業員が自分ごととして捉えるよう促す必要があります。

■ガイダンスが果たす役割
- 共通理解と一貫性の確保
制度の概要と目的を全社で統一して理解することで、異なる部署間でも一貫性が生まれ、考え方や期待される行動の解釈にブレが少なくなります。
- 安心感・納得感・成長意欲の醸成
従業員が「自分たちはどこに向かい、何が期待され、どう評価され、どのように成長できるのか」の全体感が理解できることで、安心感と納得感が生まれます。また、キャリアパスや成長のイメージが見えるようになることが、従業員のモチベーションを引き出すことに繋がります。
- 自分ごと化の促進
評価制度を運用することが、自身や組織の未来にとってどんな影響をもたらすのか理解することで、必要性の実感と制度運用への主体的な参加につながります。

多くの会社では、「従業員に評価制度を理解してもらう」ことがゴールになっていますが、そうではありません。その後の運用成功を左右する重要なイベントですので、ユアパトではシナリオ作りにもこだわっています。

次の章では、実際のガイダンスで伝える要素の例を具体的にご紹介していきます。従業員が制度の意味・意図を理解し、運用に向けて動けるようになる情報提供を意識して組み立てましょう。

人事制度のサマリー:評価制度の全体像を共有する  

ガイダンスの第一歩として、人事制度全体の概要を伝えます。制度全体像とその意味・意図を理解し、評価制度の各要素がどう関わり合うかを把握することで、どのような運用が求められるかが理解しやすくなります。 

■要素例
- 導入/改定の背景と目的:自社としての人事制度の導入/改定の背景と目的をわかりやすく整理して伝えていきます。
 例)今後の事業拡大や上場に備え、会社の持続的成長と従業員の成長を両立するための仕組みとして導入する、などです。
- 制度の全体像:主に等級・評価・賃金制度の3本柱を中心に、各制度の概要・考え方・重要ポイントと制度間の相互関係を整理して伝えていきます。  
- 従業員の役割:制度運用において従業員に求める役割を伝えていきます。例えば、評価者は、公正な視点で従業員の成果や行動を評価し、成長を支援する役割を果たす、などです。

等級制度・評価制度の理解を促進する  

ガイダンスでは、等級制度と評価制度の内容について丁寧に説明し、理解を深めてもらう必要があります。等級も評価基準も抽象度の高い表現が多くなりがちであるため、適宜具体例など、従業員が身近にイメージしやすくなるよう伝え方を工夫しましょう。

■要素例
- 等級制度と評価制度の違い
等級制度:未来への期待に基づき、期待する役割やスキルレベルに応じた等級を設定。報酬のレンジとも関連し、昇進の目安としても活用される
評価制度:過去の実績や行動を評価し、昇給・賞与といった報酬決定の基盤となるもの

- 等級制度と評価制度の内容
等級内容:等級設定の背景、各等級に期待する役割と等級ごとのレベル感の違い
評価基準:成果評価(目標達成)、プロセス評価(取り組み)、行動評価(バリュー)
昇級・降級の仕組み:成果や行動の評価が昇級・降級にどう関わるか
運用サイクル:等級決定会議、目標設定面談、中間面談、振り返り面談、評価会議、評価フィードバック面談などを紹介
目標設定ガイドライン:目標設定の考え方とポイント、個人目標と組織目標の整合性を重視すること
具体的スケジュール:事業サイクルと関連してどのタイミングで何を行うか

賃金制度の概要:評価結果との連動を示す 

評価結果は賃金制度と連動するため、その概要もガイダンスで共有しておくと良いでしょう。従業員は、自分の評価がどのように報酬に影響するのかを理解することで、より納得感を持って行動できるようになります。

■要素例
- 昇給・賞与の仕組み:評価に基づいて昇給や賞与が決まること。  
- 報酬レンジ:各等級ごとの報酬の幅や基準。  
- 昇給・降給:評価や等級判定が昇給・降給にどう関わるか。

人事制度に対する「みんなごと化」を引き出すためのポイント

効果的なガイダンスを行うためには、従業員が制度の意図や仕組みを理解し、自分自身の成長やキャリア、会社の未来に直結するものであると実感することが重要です。しかし、単に「伝える」だけでは不十分で、関係者がその意味に腹落ちし、「自分ごと」「みんなごと」として捉えられるようになる仕掛けが求められます。  

以下は、ガイダンスを通じて「伝わる」ことを目指し、その後も制度運用が定着するための工夫とフォローアップの視点です。

1. キャリア形成と成長の可能性を強調する  

従業員が評価制度を「負担」「面倒な義務」ではなく、「自己成長のための機会」「意味のあるマネジメントサイクル」と捉えることができるよう、キャリア形成における具体的な価値を伝えます。

- 昇進やスキルアップにつながる道筋を示す
例:等級制度における次のステップへの期待や、それに基づくスキル・成果の明確な基準を説明
- 長期的なキャリアパスを示す 
例:マネジメント職だけでなく、専門性を追求するスペシャリストとしての長期的な成長ルートも紹介  

これにより、評価制度が「何のために存在するのか」が理解され、未来の自分にとって価値があると感じられるようになります。

2. 具体的な業務例で理解を深める  

評価制度の項目がどのように日常業務とつながるのかを、具体的な事例で示すことが重要です。組織のビジョン・方針と自分の仕事と評価がどう結びつくかを従業員自身がイメージできるようにします。

- 例:営業職の場合
「業界No.1に向けて追い上げていくために、新規顧客獲得や既存顧客の売上成長が成果目標に含まれる。そこではどのような取り組みが求められ、成果に対する評価がどのように行われるか」を例示して説明する。  
- 例:エンジニア職の場合  
「サービスが形になり、ここからはシステムの安定稼働や技術革新が成果評価の一部。プロセス評価では、コードの品質やコラボレーションが重要視される」といった具体例を示す。

組織目的・目標と業務と評価基準の関連性を可視化することで、「自分の仕事が組織にどう貢献するか」を従業員が理解しやすくなります。

3. 対話の機会を通じて納得感を醸成する  

一度のガイダンスで全てを伝え切ることは難しいため、制度運用の過程でフォローアップを行い、理解を深める機会を提供します。

- 制度のハンドブックやFAQの提供:従業員がいつでも確認できる資料やWebページを用意する。
- 評価運用サイクルごとの説明会の実施:目標設定や評価会議のタイミングで、再度具体的な説明を行うことで全体の理解度を底上げする。

説明会の場では質問しにくいという従業員も少なくありません。アンケートフォームを用意して、評価制度に対する理解や感情、質問などを回収することも1つです。これらを実施することにより、従業員は時間をかけて制度の理解が進み、より自分ごと化していくことができます。

4. フォローアップと継続的なサポート  

一度のガイダンスで全てを伝え切ることは難しいため、制度運用の過程でフォローアップを行い、理解を深める機会を提供します。

- 制度のハンドブックやFAQの提供:従業員がいつでも確認できる資料やWebページを用意する
- 評価運用サイクルごとの説明会の実施:目標設定や評価会議のタイミングで、再度具体的な説明を行うことで全体の理解度を底上げする

これにより、従業員は時間をかけて制度の理解が進み、より自分ごと化していくことができます。

まとめ

ガイダンスを効果的に実施することで、評価制度が単なるルールではなく、従業員一人ひとりにとって、そして組織全体にとって「未来につながる成長支援ツール」であると理解されるようになっていきます。そのためにも、一方的な情報の伝達に終わらず、対話とフォローアップを通じて意味の理解を深め、共感を引き出すことが大切です。

もし、従業員の制度理解や運用に課題を感じている場合は、ぜひ一度ご相談ください。貴社の従業員や組織が制度を自分ごと・みんなごと化し、成長と成果を実現できるよう、私たちが全力でサポートいたします。
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