前回までの記事では、人事制度の目的やスコープ、理想の会社・組織状態、報いたい行動・成果を整理した上で、制度の大方針を従業員に伝えて合意形成をはかる段階までをお伝えしてきました。今回は等級(グレード)設計のポイントについて解説していきます。

人事制度の3つの柱

制度の中身を構築するにあたり、最も重要となるのが以下の3つの制度です。

等級制度(グレード):従業員を能力や役割に応じて分類し、成長の方向性を示すもの
評価制度:従業員の業績や行動を評価し、組織が何を重視するかを明確にするもの
賃金制度:評価に基づき、従業員に適切な報酬を与えるもの

これらの制度は、相互に関連しながら機能します。等級制度は、従業員の役割やスキルを整理し、その基準に基づいて評価が行います。その評価結果は賃金に反映されます。したがって、まずは等級制度を明確に定義することが、人事制度全体を成功に導くための第一歩となります。

 等級(グレード)設計の重要性

企業の人事制度において、等級(グレード)は、従業員の役割や責任を明確にし、キャリアパスを提供するために外せない仕組みです。特に組織の成長とともに、従業員一人ひとりの貢献度を正当に評価し、処遇に反映させるための基準として等級は欠かせません。

適切な等級設計を行うことで、以下の効果が期待できます:
・キャリアパスの明確化:従業員が自分の成長目標を理解し、将来に向けた努力を促進できる
・公平な基準の提供:従業員が共通基準の中で位置づけられるため、透明性と納得感が生まれる
・組織全体の方向づけ・モチベーション向上:自分の役割と評価基準が明確になることで、従業員が目標に向かって意欲的に取り組む

等級(グレード)設計の主な検討観点

等級制度を設計する際には、いくつかの重要な観点を考慮する必要があります。ここで大切なのは、自社のミッション・ビジョン・バリュー、さらには「会社や組織の理想状態」や「報いたい行動や成果」との紐づけがしっかりとされていることです。これらが結びついていないと、等級設計が単なる形式的・一般論的なものに留まり、自社らしさを反映できずに形骸化に繋がる恐れがあります。その上で、以下の観点を踏まえ設計していきましょう。

1. 等級の階層数をどう設定するか

自社に適した等級の階層数を設定する必要があります。多くの企業では7~9段階の等級を採用していますが、これは企業の規模や業界、成長フェーズに応じて調整が必要です。階層が多すぎると複雑化して等級間の違いがわかりにくくなり、従業員が次のステップに進むための要件も曖昧になることがあります。一方、少なすぎると等級が上がる機会も少なくなり、成長実感も減り、モチベーションの低下を招く可能性があります。

ですから、自社の制度の大方針と照らし合わせ、どのような成長ステップが必要かを考慮しながら階層を設計することが大切です。

2. 等級と職位の関係

等級と職位(役職)の関連性を検討する際、ポイントとなるのは、どのようなキャリアパスを設定するかです。等級と職位を一対一で連動させる方法もありますが、等級と職位を完全に連動させず、幅を持たせた緩やかな連動を取り入れることで、より柔軟な運用が可能になります。

例えば、単線型等級(一方向のみの等級や役職の上がり方)の場合、「4〜6等級は課長レベル」「5〜7等級が部長レベル」といったように、職位と等級の関連付けを緩やかにしておくと、組織運営が柔軟に対応できるようになります。役職変更ごとに等級や報酬が変動するような設計は、特に変化の激しい成長期の企業では弊害が出やすいため、幅を持たせた設計が好ましいのです。

また、最近では複線型等級という一定以上の等級からマネジメント(管理職として組織をリードする道)とスペシャリスト(特定分野での専門性を高める道)に分かれるキャリアパスを選択できる人事システムの導入も増えています。従業員がマネジメントコースとスペシャリストコースのどちらかを選べるようにすることで、個々の適性や志向に応じたキャリア成長が可能となりますが、導入する場合には柔軟性の高い等級設計が求められます。

例えば、マネジメント職の4〜6等級、スペシャリスト職の5〜7等級といった形で、役職に応じた柔軟な等級設計を行うことが有効です。このアプローチにより、従業員は自身のキャリア志向に合わせた成長機会を見つけやすくなり、組織全体の成長に貢献しやすくなります。

3. 共通要件と職種別要件の設定

共通要件と職種別要件の選定も必要不可欠な観点です。特に、組織が小さい段階では全従業員に共通の要件を設定することがシンプルで運用しやすいのですが、組織が成長するにつれて、職種ごとの異なる役割やスキルセットを評価する必要が出てきます。

ここで大切なのは、「報いたい行動や成果」が明確になっていることです。どの職種においても、共通して評価したい行動がある一方で、職種固有のスキルや成果も尊重するバランスが必要です。これをしっかりと踏まえて等級を設計することが、制度全体の公平性と実効性を高めます。

等級設計の具体的な進め方

具体的にどのように等級を設計していくのか、ステップごとに解説します。

1.各等級の役割を定義する

まず、各等級が果たすべき役割を明確に定義します。たとえば、一番下の新人レベルの等級では「基本的な業務スキルを身につけ、指示に従って業務を遂行する」という役割を、マネジメントレベルの等級では「チームをリードし、組織全体の成果に貢献する」といった役割を設定します。

役割定義の流れとしては、スタート(新人)→一人前(自律的な業務遂行)→リーダー(チーム内の影響力)→マネジメント(組織成果への貢献)、または、スペシャリスト(専門性による組織貢献)といった成長段階に応じた役割が求められます。これにより、従業員がどの段階でどのような価値を発揮すべきかが明確になります。

成長企業においては、特に下位等級では「育成や成長」が重視されますが、同時に成果を意識した行動も求められる事が多く、成長重視と成果重視のバランスを取りながら、柔軟に運用することが肝要です。一方、上位等級では、より責任が大きくなり、成果や組織全体への貢献が重視されるようになります。そのため、上位等級の従業員は役割遂行の精度と組織成果を達成するためのリーダーシップが求められます。

この役割定義は、自社の理想状態に向けて従業員がどのような行動を取ることが求められるかを反映することが大切です。組織の中で求められる役割を整理し、それを等級要件として位置づけることで、各等級で求められる成果や成長の軌道が明確になります。

2. 必要なスキル・マインド・知識を定義する

次に、役割に応じて必要なスキル、マインド、知識を具体化します。たとえば、初級レベルの従業員には「基礎的な業務スキル」と「指示に従う姿勢」が求められる一方、管理職レベルの等級には「リーダーシップ」や「戦略的思考」が期待されます。

ここでも、理想の組織状態や報いたい行動をもとにスキルやマインドを定義し、従業員が組織の中で何を目指すべきかを明確にします。例えば、「挑戦を恐れない姿勢」や「失敗から学ぶ姿勢」を重視する企業文化であれば、そうした行動規範を反映したマインドを等級内容に組み込むことが適切です。

3. 等級間の差を明確にする

各等級間の違いをはっきりさせることも大切です。具体的には、責任範囲や成果に対する期待値を明確にし、どの等級にいるかによって求められる業務がどのように異なるかを示します。そうすることで、従業員は次にどのような行動を取れば等級が上がるのかを理解しやすくなり、キャリアパスが見えやすくなります。

等級設計の成功に向けた留意点

等級設計を行う際、制度が有効に機能するためにはいくつかの留意点があります。

1. 複雑化させない

制度が複雑すぎると、運用が難しくなるだけでなく、従業員にも混乱を招くことがあります。特に成長期の企業では、複雑な等級制度は混乱を招きやすいため、シンプルな設計を心がけることが大切です。たとえば、初期段階では共通要件を中心に等級を設定し、将来的に組織が拡大した際に職種別の要件を追加するなど、柔軟な設計を行うことがポイントです。

2. 柔軟性を確保する

制度は一度作ったら終わりではなく、継続的な見直しが必要です。組織が成長し、事業環境が変わる中で、求められるスキルや役割は変化していきます。定期的に制度を見直し、現状に即したものにアップデートする柔軟性を持つことが、適切な等級の運用につながります。

まとめ

等級制度は、従業員に成長の道筋を示し、組織の目指すべき方向性を共有するための重要なツールです。自社のミッションやビジョン、理想状態に沿った等級を明文化することで、組織全体に一貫した方向づけがなされ、従業員は自らの役割や目標を理解し、積極的に行動することが可能になります。

もし、貴社で等級設計において迷いがある場合は、一度私たちにご相談ください。貴社が目指す方向性を体現するための貴社らしい等級制度を描き、それを実際に運用するためのサポートを提供いたします。

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