前回の記事では、目標・評価制度の運用サイクル全体像を解説しました。運用サイクルの中でも「等級決定会議」は、従業員が次の等級で求められる役割を果たせるかを見極め、昇格や降格を判断する重要な場で、キャリア形成と組織の人材配置に大きな影響を与えます。今回は、その意義と進め方、効果的な運用のポイントを解説します。

等級決定会議の役割:組織の未来を見据えた人材評価

等級決定会議とは、従業員がどの等級(グレード)にふさわしいかを判断する場です。この会議では、各従業員の実績や行動をもとに、現在の役割を評価するだけでなく、将来にわたってその等級で求められる役割やスキルにどの程度再現性高く応えられそうかも判断していきます。

等級決定会議の目的

1. 昇格・降格の決定:各従業員が次の等級に進む準備ができているか、または現等級の基準を維持できているかを判断します
2. 人材配置の最適化:適切な等級設定を通じ、組織内での人材配置を整え、戦略的な目標達成を支援します
3.キャリア成長の促進:昇格による挑戦の機会を提供し、降格を通じて新たな学びと成長の道を考慮し、整えていきます

このように、等級決定会議は単なる評価の場に留まらず、「組織の未来に向けた期待」と「従業員の成長の方向性」を整える根幹のプロセスなのです。

等級決定と人事評価の違いとは?

等級決定会議は、「未来への期待」を基準に従業員の可能性を見極め、適切な役割配置を行う場です。一方で、人事評価は、過去の実績に基づいて昇降級を決定するプロセスです。この違いを理解することが、等級判定を効果的に進める上では不可欠です。

等級判定

従業員の将来の役割や期待される能力に基づいて、どの等級(グレード)にふさわしいかを判断する

ポイント:未来の貢献可能性を見極め、昇格・降格を決定することで適切な役割配置を行う
判断基準:「次の等級の要件に対応できるか」「現等級の役割を超えているか」を基準に判断
結果:等級の変更により、給与レンジや責任範囲などが見直され、組織の人材配置の最適化に繋がる

人事評価

一定期間の業績や行動の結果をもとに、従業員の貢献度を評価し、その成果に応じた報酬や昇給、ボーナスを決定する

ポイント:過去の成果や行動に対して適切に評価を行い、処遇(昇給、賞与など)に反映する
判断基準:「目標達成度」や「プロセス・行動評価」をもとに、一定期間内の業績と行動を評価
結果:評価に基づいて昇給や賞与が決まり、短期的なモチベーション向上や成長の後押しに繋がる

昇級基準の明確化:卒業方式と入学方式の選択ポイント

等級を判定する際には、どのような基準で次の等級に進めるかを定めることが重要です。昇級の判断には「卒業方式」と「入学方式」という2つの代表的なアプローチがあり、それぞれの特徴を理解した上で、組織の方針に合った方式を採用する必要があります。  

卒業方式  

「卒業方式」は、「現等級で期待される役割を十分に果たしているか」を基準に昇級を判断する方式です。現在の役割を安定して担えるかどうかが評価の中心となり、実績を重視した昇級判断が行われます。  

例:現等級での役割を十分に果たし、安定した成果を上げたため昇級。
特徴:現等級の目標や役割を一貫して達成していることが必要。  
メリット:基準が明確で、これまでの成果が評価されるため、従業員の達成感が得られます。  
留意点:昇級後の新しい役割や期待に向けた準備が不足する場合があり、フォローアップが必要です。  

入学方式

「入学方式」は、現等級の基準を満たすだけでなく、「次の等級の役割を担う準備ができているか」を基準にする方式です。新しい等級に進んだ後に成果を上げられるかどうか、将来への期待に基づいた判断が求められます。  

例:次の等級の役割を担う準備が整い、既に一部の役割を実践しているため昇級。
特徴:現在の実績だけでなく、次の等級の役割を見据えた判断が行われます。
メリット:昇級後のギャップを減らし、新しい役割での成果を出しやすくします。
留意点:評価者間で「次の等級に求められる基準」を統一する必要があり、基準の中身の捉え方の共通理解が求められます。

企業戦略に応じた昇級方式の選択で組織の成長を支援

企業の成長フェーズや人事戦略によって、どちらの方式が適しているかが異なります。例えば、成長期の企業では「入学方式」によってチャレンジ精神を促すのが効果的です。一方、成熟フェーズや安定を重視する企業では、「卒業方式」によって実績に基づいた判断を行うことが適している場合が多く見られます。

いずれの方式を採用する場合でも、組織内で基準を明確にし、評価者間で共通認識を持つことが必須です。これにより、昇級が公正かつ透明に運用され、従業員の納得感とモチベーションを高めることに繋がります。  

等級決定会議でのスムーズな議論を実現するための進め方と準備

等級決定会議は、昇格や降格の判断を通じて組織の未来に向けた人材配置を最適化するための場です。この会議では、単なる現状の評価ではなく、「今後、求められる役割にどれだけ応えられそうか」という視点が重視されます。  

ここでご紹介する進め方は、あくまで一例です。各組織の事情に応じて柔軟にカスタマイズし、会議を効果的に運営できるようにすることをお勧めします。

1.事前準備:必要な情報を整理する  

等級決定会議がスムーズに進むよう、事前準備は欠かせません。従業員の昇格・降格の判断に必要な情報(実績、行動評価、スキル、過去の評価履歴など)を整理し、会議での議論の基礎を固めます。特に以下の3つの候補者グループに関する情報がポイントです:

- 今期昇格候補者:「今期昇格が妥当か?」現時点での等級基準を満たしているか、具体的な実績がどうかを確認
- 次回以降の昇格予備軍:「どんな実績が必要か?」今後の昇格を目指すために必要な成長ポイントや実績を整理
- 降格可能性のある従業員:「どんな改善が必要か?」降格に繋がる課題と改善策、上司からの支援内容を整理 

評価者同士で基準の認識を揃え、主観的な判断に頼らず、一貫した基準で会議を進める準備を整えます。

2.会議当日:議論の進め方と判断ポイント  

会議当日は、まず会議の目的と進行の流れを全員で確認することから始めます。その後、対象者全員の等級を把握した上で、今期の昇格候補者→次回以降の昇格予備軍→降格可能性のある従業員の順で議論を進めると良いでしょう。

今期昇格候補者について:  
「現時点でどの程度等級の要件を満たしているか」や「どのような実績を達成しているか」を評価者が説明。  
昇格が適切かどうかを、具体的な基準に基づき判断します。
 次回以降の昇格予備軍:
「現時点でどの要件を満たしていて、何が不足しているか」を明確化し、今後の昇格に必要な具体的な成果を確認。
成長の方向性を共有し、次のステップに向けた計画を立てます。
降格可能性のある従業員: 
降格可能性の理由や事実を確認し、どのような改善が必要かを議論。
「上司からの具体的な支援内容」や「改善が見られた場合の対応」についても整理し、本人とのコミュニケーション内容をすり合わせます。

また、今回の会議で昇格候補に挙がらなかったものの、今後成長が期待できる従業員を見逃さないよう、次回以降の昇格予備軍として記録しておくことも必要です。

3.事後フォロー:決定内容を記録し、共有する  

会議での決定事項は、記録として残し、関係者全員がアクセスできる状態にしておきましょう。昇格や降格に関する判断基準や今後の対応策も明文化し、次回の会議運営に活かします。  

昇格・降格の通達:
対象者には、判断の背景や今後の期待を丁寧に説明します。特に降格・降格可能性がある人の場合、事前に本人の改善余地を伝え、上司からの支援内容も共有することで、納得感を醸成するための丁寧なコミュニケーションを心がけます。

このように、等級決定会議の進め方を丁寧に設計し、事前準備から事後フォローまでを徹底することで、透明性の高い公正な判断を実現し、組織全体の成長を支えることができます。

等級決定会議の成功を支える3つの重要なポイント

等級決定会議を成功させるためには、以下の点に注意が必要です。

1. 必要な情報が不足しないよう準備する

等級判定に必要な情報が不足すると、感覚的な判断に頼るリスクが高まります。過去の実績や評価の履歴を事前に整理し、議論に必要な資料を揃えておくようにしましょう。

2. 評価者間で基準の認識を揃える

評価者が等級要件を正確に理解しないまま会議に臨むと、昇降格の判断が一貫しない恐れがあります。基準について事前に話し合い、具体的なケースでイメージを共有することが有効です。

3. 降格時のコミュニケーションを逃げずに、丁寧に行う

降格の可能性がある場合は、事前に本人へ誠実に伝え、改善の余地や支援策について話し合うことが不可欠です。突然の通達ではなく、本人に準備の機会を与えることで、納得感を高めるコミュニケーションが可能になります。

また、降格を単なる失敗と捉えさせないために、「ミッション変更」による期待や「この役割への再挑戦が、次の成長に繋がる」というメッセージを込めることで、本人のモチベーション低下を防ぎ、成長のきっかけとして支援を続ける姿勢を示します。

まとめ

等級決定会議は、従業員の成長と組織の戦略を結びつける場です。未来への期待に基づいた等級の判断を行うことで、組織全体の人材配置の最適化や、従業員のキャリア形成の促進に繋がります。

基準や期待役割について、マネジメント層同士でのリアリティを深めた共通認識を持つことが、この会議の成功には不可欠です。もし、等級決定プロセスや評価制度運用に課題を感じている場合は、ぜひ私たちにご相談ください。経験豊富なプロの視点から、貴社に最適な制度設計と運用のあり方を一緒に考えてまいります。

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